from USA
院長 今野 優 医学博士
昭和38年9月11日 生
平成元年 5月医師免許(第321523号)
平成 8年 9月旭川医科大学学位記(第240号)
平成 8年10月日本眼科学会眼科専門医(第8303号)
1996年 7月 銀海149号 リレー随想 from USA(PART2) に
       今となっては、随分と懐かしい留学生活についての話が
       掲載されました。


はじめに
 1993年11月から昨年(1995年です)10月までの二年間、Schepens Eye Research Institute(SERI)のLaser Doppler Laboratory に留学しておりました。この研究室では Laser Doppler Velocimetry の開発者のひとりである Gilbert T. Feke 博士の指導の下、網膜血流および視神経乳頭毛細血管血流速度の測定を行っています。1980年に吉田晃敏先生が最初に留学して以来、私が六代目の日本人フェローです。
 ボストンと言われても、ボストンバッグやロックバンドしか頭に浮かばなかった私でしたから、アメリカに着いた時は、まさに右も左もわからない状況でした。しかし幸いなことに、医局の先輩がたくさんおられ面倒を見てくださいましたお陰で、比較的順調にアメリカの生活に慣れることができました。
 私の前任者である藤尾直樹先生、SERI で硝子体の研究をされていた引地泰一先生、Massachussetts Eye and Ear Infirmary で水晶体の研究をされていた五十嵐弘昌先生、Simmons & Smith Eye Associates で緑内障の研究をされていた五十嵐幸子先生には大変お世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 また。このような素晴らしい機会をお与え下さいました吉田晃敏教授に心から感謝いたしております。

留学実感
 留学中の生活ぶりについて書くようにとのお話でしたが、私の場合は家族を日本に残した単身赴任でしたので、日常生活のことは皆さまの参考にはならないのではないかと思い、職場のことについて書かせていただきたいと思います。
 職場には、陽気なアメリカ人がたくさんいて、わかりにくいボストンなまりの早口の英語で話しかけてきます。私が単身赴任であることを知り、「アメリカ生活で気をつけなければならないことは脂肪の取り過ぎだ、女性にも気をつけたほうが良い。しかし、最も気をつけなければならないのは脂肪を取り過ぎた女性だぞ」などと忠告してくれました。
 非常に話好きでありながら英語が不自由な私は、伝えたいことが、うまく表現できず、ストレスを感じておりました。
 この状況で得られたこととしては、聞き上手になったことと、伝える内容を一度、頭の中で整理してから話すようになったことではないかと思います。

臨床
毎週月曜日は、Schepens Retina Associates で J.Wallace McMeel 先生の指導の下、網膜硝子体疾患の患者さんの外来診察をしていました。外来診療でもRight とLight の言い分けが上手にできず、まさに右も光も分からない状況でした。
 日本での外来との違いとして、完全に眼科分野が専門化されていること、患者さん一人に対する時間が充分あること、強膜圧迫子を用いて、双眼倒像鏡で全例の最周辺部まで検査することなどがあげられます。
 診察、ムンテラにも余裕があり、一時間以内に完成する蛍光造影写真を前に、AMD の患者さんに"No ooze is good news." と励ます光景が印象に残っています。また、Frans Van de Velde 先生に SLO の臨床応用について指導を受けておりました。

研究
 月曜日以外は、ほとんど研究室におり、Laser Doppler Velocimetry を用いて、眼循環の研究をしておりました。
 Laser Doppler 法の利点として、散瞳を要すること以外は全く無侵襲な検査であること、他覚的に血流速度を定量できること、測定時間が短いこと、反復測定が可能であること、そして生理的状態で血流動態の評価がおこなえることなどのがあげられます。
 網膜血流の測定は、インスリン依存型糖尿病の患者さんを中心に行いました。糖尿病で網膜症を認めない患者さんの網膜においても、既に血流量の低下が観察されました。また経年変化を追うことで、罹病歴が長くなり網膜症が悪化するのに伴って、低下していた血流量が若干増加の方向に向かうことが観察されました。これらの結果は、毛細血管の無灌流やシャントなどの細小血管レベルでの微細な変化を反映しているものと考えられます。
 視神経乳頭毛細血管血流速度の測定は、緑内障の専門家であるBernard Schwartz 先生とPeter A. Netland 先生との共同研究として、高眼圧症での血流速度と網膜神経線維層の厚さの関係についての研究、眼圧降下剤の視神経乳頭血流速度に対する影響についての研究などを行いました。
 留学中にも患者さんと接することができ、また臨床と密接に関連した領域での研究ができましたので、今後の眼科医としての生活に役立てたいと考えております。

おわりに
 最後になりましたが(きっとアメリカ人でしたら書くと思いますが)、日本で頑張ってくれた妻の理恵、長女の杏美、そして留学中に生まれた長男の駿に感謝しております。
2003.7.26 記